植物を長くやっていると、
「もうだいたい見たことあるな」と思う瞬間がたまに訪れます。
赤い花、黄色い花、紫の花。
珍しい形、変わった葉、奇妙な塊根。
──そんな既視感を、
あっさり裏切ってくるのが Lachenalia viridiflora でした。
■ 出会いはSNSから(だいたいこうなる)
色々教えていただいている
@tanikubaka_ichidai さん(多肉馬鹿一代さん)の投稿に流れてきた、あの花。
「……緑?」
「いや、青?」
「金属?」
スマホ越しなのに、色の情報量が多すぎる。
これはもう、
「写真ではダメなやつ」
「実物を見ないと納得できないやつ」
と判断して、気がついたら購入していました。
植物あるあるです。
判断が早いときほど、財布の判断も早い。


🌱 Lachenalia viridifloraの名は伊達じゃない
📌 基本情報(確度:高)
- 学名:Lachenalia viridiflora
- 科:ヒアシンス科(Hyacinthaceae)
※APG体系では キジカクシ科(Asparagaceae)ヒアシンソイデ亜科- 属:Lachenalia
- 原産:南アフリカ(主に西ケープ州・冬雨地帯)
- 生活型:球根性多年草
- 生育型:冬生育・夏休眠(典型的な冬雨型)
👉 ラケナリア属の中でも、世界的に見て最も有名かつ象徴的な1種。
🌸 種小名 viridiflora の意味(ここ重要)
- viridi- = 緑
- -flora = 花
👉 「緑の花を咲かせるラケナリア」
これは誇張でも比喩でもなく、
ラケナリア属で“本当に緑の花”を持つ代表種です。
🌿 花のうんちく(この種の核心)
■ なぜ緑色の花なのか?
多くの被子植物にとって
「花=派手な色」は送粉の基本戦略ですが、
Lachenalia viridiflora は真逆。
- 花色:エメラルドグリーン〜青緑
- 光の当たり方で青くも見える
- 透明感が強く、金属的な質感すらある
👉
色で呼ぶのではなく、形・配置・近距離視認で送粉するタイプ
と考えられています。■ 送粉戦略(推定)
- 主な送粉者:昆虫(小型のハチ類)
- 派手な長距離アピール ❌
- 近距離・効率重視 ⭕
👉 冬雨地帯で競争相手が少ない時期だから成立する戦略。
🍃 葉と球根の特徴
■ 葉
- 通常2枚
- やや肉厚
- 灰緑色〜緑色
- 斑が入る個体もあり(園芸的評価高)
👉
葉の美しさだけでも十分鑑賞対象になるラケナリア。■ 球根
- 小型〜中型
- 年々ゆっくり肥大
- 分球はするが爆発的ではない
👉
「増えすぎない」「暴れない」=コレクター向き。
🌍 自生環境とうんちく
■ 原産地の条件(属レベルで確実)
- 冬:涼しく雨が多い
- 夏:高温・乾燥
- 土壌:砂質〜礫質、排水良好
👉
日本の気候と真逆なので、
「夏の水やり」が最大の死亡原因。
🧠 生態的に面白いポイント
① ラケナリアの中でも“異端”
- 赤・黄・橙が多い属の中で緑花
- 園芸的インパクトが極端に高い
- 野生個体数は多くない
👉
研究・栽培・コレクションすべてで特別扱いされる種。② 世界的な人気種
- 海外球根コレクターの定番
- 「初めてのラケナリア」ではなく
**「最後に行き着くラケナリア」**と言われることも。
🌱 栽培のうんちく(一般論・確度高)
- 光:明るい日向〜半日陰
- 水:生育期は乾いたら給水、常湿NG
- 用土:排水性最優先(砂・軽石多め)
- 温度:5〜20℃
- 夏:完全休眠、断水気味
⚠️
夏に湿らせる=ほぼ事故確定
🌱 Lachenalia viridiflora の播種方法
※ 本種単独の論文プロトコルはありません。
以下は SANBI/Pacific Bulb Society/Kew などに基づく
ラケナリア属共通で確度の高い播種法です。
🧪 播種前処理
■ 種子
- 黒〜暗褐色
- 小型
- 休眠は弱い〜ほぼ無し
■ 浸漬
✅ 不要
理由:
- 種皮が硬くない
- 冬雨型で即発芽前提
❌ 長時間浸漬はカビ・腐敗リスク増
🗓 播種時期(日本)
- 最適:10〜11月
- 冷涼地:9月下旬〜10月
👉 気温が下がり始める=発芽スイッチ
🪴 用土(最重要)
排水性最優先
例:
- 赤玉土(小粒)5
- 軽石(小粒)3
- 川砂 or 桐生砂 2
※ 市販の球根培養土は水持ち過多で不向きなことが多い
🌾 播き方
- 浅播き
- 覆土:種子の1〜2倍の厚み
- 密播しない(カビ防止)
💧 水管理
- 播種直後:一度だけしっかり潅水
- 以後:表土が乾いたら軽く給水
❌ 腰水
❌ 常湿
❌ 受け皿放置
🌡 発芽条件
- 温度:10〜15℃
- 光:明るい日陰〜散乱光
📌 ラケナリア属は
中性〜弱好光性
(暗黒不要・直射不要)
⏱ 発芽まで
- 2〜4週間が一般的
- 1か月以上かかっても異常ではない
🌱 発芽後の注意
- 初年度の球根は米粒サイズ
- 掘らない
- 乾かしすぎない
- 肥料は与えない
☀ 夏越し(最重要)
- 葉が枯れたら断水
- 夏は完全休眠
👉 夏の管理失敗=全滅の最大要因
🧠 まとめ(一言)
- ラケナリア属の象徴種
- 「本当に緑の花」を咲かせる異端
- 派手さではなく完成度で勝負
- 播種は素直、夏管理がすべて
一言で言うと:
「ラケナリア界のラスボス(静かに強い)」
受粉方法についても聞いてみました(一般論)
🌸 Lachenalia viridiflora の受粉方法
まず前提(重要)
- Lachenalia viridiflora に特化した一次論文(受粉実験・送粉者同定)は存在しません
- したがって以下は
👉 Lachenalia 属全体で確認されている確度の高い知見
👉 viridiflora に安全に当てはめられる内容
として説明します
① 野生下での受粉様式(属レベルで確実)
■ 主な送粉者
Lachenalia 属の多くは:
- 昆虫媒(entomophily)
- 小型ハチ
- ハナアブ
- 小型甲虫
が主な送粉者です。
■ viridiflora の花色から推測できる点(確度:中〜高)
- 緑〜青緑の花色
- 強い赤・橙色ではない
- 香りは弱い〜ほぼ無臭
👉
鳥媒(サンバード)ではない
夜蛾媒でもないつまり:
昼行性の小型昆虫向け設計
■ 花の構造的ポイント
- 筒状花
- 花口は狭すぎない
- 雄しべ・雌しべが花筒内部に配置
👉
花に潜り込むタイプの昆虫が
体をこすりつけて受粉する構造
② 自家受粉はできる?
結論(正直)
- 可能性はある
- しかし 確実ではない
理由
Lachenalia 属は:
- 自家和合種
- 自家不和合種
が 混在 しています。
📌
viridiflora 単独で
「自家受粉可/不可」を断定できるデータはありません。
経験則(園芸家ベース)
- 1球単独でも種が入る例 → あり
- 複数球ある方が結実率は高い → ほぼ確実
👉
弱い自家和合〜部分的自家不和合
このタイプの可能性が高い、というのが安全な見方。
③ 手動受粉の方法(確実ルート)
用意するもの
- 面相筆 or 極細筆
- できればルーペ
STEP 1|花の成熟確認
受粉適期は:
- 花が完全に開いている
- 花粉が粉状に見える
- 柱頭が少し湿って見える
👉
開花直後〜2日目あたりが最適
STEP 2|雄しべから花粉を取る
- 筆で 雄しべの先端を軽くなでる
- 押さない・こすらない
STEP 3|雌しべへ移す
- 同じ花 or 別花の柱頭に
- そっと触れるだけ
📌
同一花内自家受粉も可
ただし 別花・別球があれば最優先
STEP 4|数日おきに繰り返す
- 1回で成功しないことが普通
- 開花期間中に 2〜3回 行うと成功率アップ
④ 受粉成功のサイン
成功すると
- 花が急に落ちない
- 花柄が残る
- 子房がゆっくり膨らむ
👉
見た目で分かるまで 1〜2週間
失敗すると
- 花が数日で枯れる
- 花柄ごと脱落
⑤ 種子形成と注意点
- 成熟まで:数週間〜1か月以上
- 蒴果(カプセル)が形成される
- 完熟すると自然に割れる
⚠️ 注意
- 乾燥しすぎると未熟で止まる
- 湿りすぎると腐る
👉
結実期は「乾かしすぎない」管理が重要
⑥ まとめ(短く・実践向け)
- 昆虫媒・昼行性
- 自家受粉は可能性ありだが不安定
- 複数球での他家受粉が最も確実
- 筆でなでるだけ
- 数回トライが基本
一言で言うと:
ラケナリアの受粉は
「優しく、何度も、期待しすぎない」次に進むなら
- 結実後の種子回収タイミング
- 実生で viridiflora の色が再現されるか問題
- 交雑しやすさ(他ラケナリアとの混ざり)
このあたりも整理できます。
■ 植え替えで起きた事件
掘り上げてみると、
球根が予想以上についていて少し嬉しくなりました。




「これは順調だな」
と思いながら鉢に植え、
撮影のために一瞬目を離した、その時。
また、あいつ です。
鉢が倒れ、
花茎がポキポキ。
なぜ一番大事なタイミングを狙ってくるのか。
なぜよりによって viridiflora なのか。
園芸とは、
こういう理不尽も含めて楽しむものだと
自分に言い聞かせました。
いくつか折れて私の心も折れてしまいました。Orz。。。💩


一応撮影






■ それでも受粉はしてみる
せっかくなので、受粉にもチャレンジ。
花粉は非常に多く、
面相筆に軽く触れただけでしっかり付着。


雌しべは花の中央に
白く、少し飛び出して見えるので分かりやすい構造。
ラケナリア属は
自家受粉できる種・できない種が混在しているため、
安全策として他の株にも花粉をつけておきました。


成功するかどうかは、正直わかりません。
でも、この「わからなさ」も含めて楽しい。
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